続・虹の向こう側

書いて、走って、旅をする。日日是魔法日和

母から娘へと繋げる虹の軌跡(4)

その年、2002年は私にとって生涯最も忘れがたい年になる。

 

マジックナンバー222号は日本の狭山工場で作られてアメリカに出荷された日本国産車だった。納車された後にそれを知った時、あっ、お母さん!と思わず絶句した。工場があるのは母が入院している病院の最寄り駅近くだ。難病ALSでもうすでに5年も入院している母、今ではもう目を閉じたまま体を動かすことも全く出来ない状態でベッドに横たわったままだった。でもきっと魂は時々体を抜け出て、私を見守っていてくれていたのかな、と思う。事故にあって廃車になって、新しい車は母のもとからやって来た。もうこれからはこの車があなたを守るから大丈夫、そんな母の声が聞こえそうだった。

 

その母がシャスタツアーが終わって間もない11月中旬、肉体を離れて光の世界へと還って行った。「お母さん、今まで充分頑張ったから、もういいよ。今度は頑張って肉体を離れてね」と私は病院のベッドの傍でそっと母の耳元に囁いた、その数日後のことだった。肉体の目覚めのないままに、母が病院のベッドで横たわっていることが私にはもう耐えられなかった。お母さんは私たち家族のために頑張っているんじゃないだろうか、いつ、肉体を離れ、自由に魂の世界で羽ばたけるのか。どうぞ、自分の意思で体を抜け出して、魂の世界で自由になってください。それが私の祈りだった。私の囁きがまるで映画のキューサインかのように、その数日後、母の肉体はこの世を去った。

 

母危篤の連絡が来てホテルの部屋を飛び出して走った、まだ星が堕ちない早朝の病気までの道。シャスタツアーを終えて日本に戻って来るまで私を待っていてくれた母、私の祈りの囁きを受け入れた母、母の最期を見送れたことは私にとって母からもらった最大の愛のギフトだった。

 

自分のお誕生日に私を産んで、亡くなる時の引導の言葉を私に託して、母は短い生涯の幕を閉じた。不本意な人生だったかもしれない、もっと自由に生きればよかったと思ったかもしれない。でも、その顔はとても穏やかで美しく白く輝いていた。

 

お母さん、222のシンクロを運んで来て、私にシャスタツアーを実現させたのは、きっとあなたのかけた魔法だったんだね。あなたがこの地上で体験出来なかった魔法の人生を私に託して。

 

『娘よ、私のぶんまで羽ばたいて、それがこの世で生きた私の勲章』。

 

荼毘に付される前、棺の中で美しく静かに輝く母の胸元に、私は一枚、シャスタの写真を忍ばせた。迷わずに光の元へまっすぐに還れるように。その日は11月半ばだというのに、うっすらと汗をかくほど暖かく真っ青な青空が広がる日だった。ああ、この青空のように、お母さんは今、やっと魂の自由を手に入れた。

 

お母さん、知ってた?私とお母さんのお誕生日4月16日の魔法を。シャスタは富士山と地球を守るエネルギーで繋がっているんだって。その富士山の麓で生まれたお母さんが同じ日に私を産んで、私はシャスタの広告塔になった。そのシャスタの標高は、14162フィートなんだよ。ほら!1と2の間に私達のお誕生日416が入っているの!シャスタのてっぺんが私達のお誕生日記念塔だなんて、なんて素敵なシンクロニシティー。

 

肉体では来れなかったシャスタに、いつもお母さんと私の魂の軌跡が刻まれている。222(虹)のシンクロを運んで来た、お母さん、あなたは私の虹の女神。

 

ありがとうお母さん、きっとこれからも、

 

私とお母さんの虹を巡る魂の旅は続く。

  

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2016年6月、モン・サン・ミシェルの空に現れた女神のような雲。

唯一羽を持つと言われている虹の女神、空から見守ってくれていた。

あの青空の日に天に還った母のように。

 

物語り、その後。

 

母のお話を書き終えて、私はふと思い出した。母が病気になって間も無い頃、日に日に弱って行く体を自分で必死に支えながら私に言った言葉を。

 

「いつか、私のことを書いてね」

 

そう言った。その時、私はまだシャスタにも出会わず、書くこともあまりなかった。きっと小学校の頃に作文の得意だった、そして本ばかり読んでいた娘にふと託した夢だったのかもしれない。

 

そう母が言った時、「そうだね」と答えたけれど、心の中は、人生を不本意に生きて病気になって、このまま死んで行くであろう母の人生をどう書けばいいと言うの?と悲しい思いが占領していた。

 

でも、今思う。母の魂はきっと決めていたんだろう。「これからが私の本当の人生。この世で果たせなかった夢を娘と一緒に歩もう」と。

 

いろんな奇跡を起こしたね、お母さん。あなたの物語はまだまだ私の中で紡がれて行く。